日本人が借金をする理由は、半分以上が浪費・遊興費(統計のまとめ)
日本人が借金をする理由は約半分が浪費です。ここでは、日本貸金業協会や東京都などの統計をもとに、日本人の借金の理由・原因について考察します。
借金の理由 ~日本貸金業協会の統計~
日本貸金業協会が、2015年3月に公表した統計では、人々の借金の理由・原因は下の通りです。
原因 | 割合 |
---|---|
娯楽・旅行 | 46.9% |
食費 | 21.9% |
納税等の支払い | 14.4% |
医療費 | 13.1% |
家賃の支払い | 12.4% |
自動車ローンの返済 | 12.1% |
光熱費 | 10.3% |
住宅ローンの返済 | 9.6% |
医療費 | 8.5% |
学費・保育料など | 8.1% |
通信費 | 8.1% |
ギャンブル | 6.4% |
冠婚葬祭費用 | 5.6% |
学習教材等の教育費 | 4.6% |
予備校受講料など | 2% |
資格試験・受験費用 | 1.5% |
その他 | 9.4% |
ここから言えるポイントをまとめると、下のようになります。
「遊びによる借金」が理由の半分以上
上の「借金の理由」を集計すると下のようになります。
- 「娯楽」と「ギャンブル」を合わせると「53%」になる
- つまり「遊びによる原因」が半分以上
遊びということは、当然これらの借金は「しなくてもよかったもの」。これが意味することは、日本人のすべてが賢くなったら、キャッシングの市場は半分になるということです。趣味やギャンブルのための借金がなくなったら、借り入れが半分に減る…ということですからね。
だから、人間が賢くなる方がいいのか、それとも馬鹿なままがいいのか…ということは、正直わかりません。『督促OL』でも、お金もないのに良いカッコをする「借金男子」について、あとがきで下のように書いています。
本の中では借金男子について、少々厳し目のことも書いてしまいましたが、「経済を回してくださっている」など、良い点もたくさんあると思います。
という内容です。「経済」以外の長所も挙げられていましたが、ここではこの部分だけ紹介させていただきます。
統計には「本当の借金の理由」は出てこない
「借金の本当の理由」を、統計で見極めるのは難しいことです。「回答者が嘘をついている」ということももちろんありますが、それだけではありません。
たとえば「食費」なら「本当に必要な食事だったのか?」などです。極端な話、「1本2000円する、贅沢なワイン」を飲むのだって、立派な「食費」なのです。
もちろん、このような飲食物の費用でも「一定の度を越したら、娯楽費扱い」になります。しかし、「娯楽費に入らない範囲のギリギリの贅沢」だったら「食費」になるわけですね。
ワインだったら「1本1万円」だったら、明らかに「娯楽費・遊興費」です。しかし「2000円」だったらどうでしょう。コンビニでも売っている価格ですし、ギリギリ「食費」に入れることもできます。
それがダメでも「400円」のワインならOKでしょう。そもそもワインやお酒自体が「生きるのに不要」なものですが、これだって「食費」としてカウントされている可能性があるわけです。
他にも、野菜でビタミンを摂るなら、もやしなどの安い野菜を中心に食べればいいのですが、やたら高い野菜やサラダを食べる人もいます。「借金する人で、そんな人いないでしょ」と思う人もいるかも知れませんが、意外と多いのです。
ということで、統計は「ある程度まで」は参考になりますが、「本当の利用者の姿」というのは、現場で彼らに接している人でしかわからないわけですね。
これは、貸金業に限らず、どんなジャンルの統計を見る時でも言えることなので、注意してください。
生活苦の借金は、一番返済不能になりやすい
「娯楽費の借金が多い」という内容を読んで「生活費での借金なら同情できるのだけど…」と思った人も多いでしょう。確かにその通りですが、生活費で借金するのが、必ずしもいいこととは限らないのです。
- 心情的には、一番同情できる
- しかし、実は生活苦の借金は「一番返済不能になりやすい」
- つまり、この理由が増えるほど、日本人が貧乏になっていく
- 日本経済全体で見れば、喜ばしいとは言えない
この「生活苦の借金は貸し倒れになりやすい」というのは、金融の世界では常識です。
たとえば『闇金ウシジマくん』の「スーパータクシーくん編」では、この編の主人公のタクシードライバー・諸星が、同僚に借金を申し込む場面があります。その時、同僚がこう言います。
「断る。お前、最近事務所で寝泊まりし始めただろ?生活苦の借金は、一番返ってこないからな」
この同僚は金融業者ではなく、諸星と同じくタクシードライバーで、個人でお金を貸しているだけです。しかし、この着眼点はまさに金融業者のものです。
「生活費のための借り入れには、融資してはいけない」というのは、消費者金融の黎明期から、言われていたことでした。消費者金融がまだ―。
- 団地金融
- 勤め人信用貸し
- サラリーマン金融
などと呼ばれていた頃ですが、何の後ろ盾もなく「個人金融」という分野を開拓した人々は、肌感覚で「生活費のための融資はしてはいけない」ということがわかっていたんですね。
ということで、上の統計の「お金を借りる理由」は、金融業の常識からすると、かなり危険なのです。もちろん、やむを得ずお金を借りていることはよくわかりますし、もっと稼ごうにも、一度ワーキングプアになってしまうと、なかなか浮上できない、というのも確かでしょう。
だから、借りる人を責めるわけではないのですが、日本経済の問題として見た時、「この借りる理由はヤバい」ということです。
重度の多重債務に陥る原因は?
東京都「多重債務110番」の統計
ここまでの「借り入れ理由」は、すべて「ソフトな人々」のものでした。もっと「ハードな多重債務者」の場合は、どのような理由・原因で借りているのか―。
ここでは、東京都の「多重債務110番」の統計を紹介します。この相談窓口に訪れる多重債務者の人々は、レベルが違います。簡単に書くと下の通りです。
- 平均借入総額…970万円
- 最高借入金額…2億3000万円
- 平均借入件数…4社
- 最大借入件数…23社
このような内容です。「平均借入総額が970万円」という時点で、唖然とする人が多いでしょう。
そして、そのような「ケタ違い」の多重債務者の方々は、どのような理由でお金を借りているのか。その調査結果は下の通りです。(2014年10月掲載の資料)
- 低収入・収入減少…93件
- 商品などの購入…53件
- 事業資金…28件
- 遊興費…22件
- 住宅ローン…16件
- 連帯保証など…13件
そして、相談件数は「258件」なので、パーセントで表すと―。
- 低収入・収入減少…36%(実質年率)
- 商品などの購入…21%(実質年率)
- 事業資金…11%(実質年率)
- 遊興費…9%(実質年率)
- 住宅ローン…6%(実質年率)
- 連帯保証など…5%(実質年率)
「約3分の1が、低収入による借金」というkとですね。そして5分の1が「買い物」です。
この買い物が「本当に必要なものだったか、ただの浪費か」はわかりませんが、普通の人が買い物で多重債務になることは少ないので、厳しい見方かも知れませんが、十中八九、単純な浪費だったと考えていいでしょう。
「低収入による借金」は、どこまで同情すべきか
「低収入・収入の減少」という理由は、同情の余地が多いにある…ように見えます。実際同情すべき方が多いでしょうが、そうでない人もいる、というのもまた事実です。
そもそも、人間が低収入になる理由はいろいろありますが―。
- 仕事をコロコロ変えてしまう
- 芸術系などの「夢」を追ってしまう
- 「努力している」というが「やり方を変える努力」はしない
などの問題もあります。もちろん、「明らかに善良な人が、ブラック企業などに潰されてしまった」という、同情に値するケースもたくさんあります。しかし、上のような本人の価値観・性格の問題」という原因も、また多いのです。
お金を軽んじた人間は、お金に軽んじられる
かつて稼げないイラストレーターだった私の経験から言わせていただくと夢を追って、お金を稼げない仕事に就くというのは、別に正しいことではありません(間違ってもいませんが)。
理由を箇条書きすると下のようになります。
- そういう「夢」を追う人の多くは、ただ「賞賛」を求めているだけである
- 「賞賛される仕事」は、名声を求めて才能のある人間が集まる
- 結果、どんなジャンルでも必ず競争が激化し、稼げなくなる
- 「名声」と「金銭」のどっちを求めるかの違いで、我欲を追っていることに変わりはない
- 「自己実現」だって、立派な我欲である
もちろん「我欲を追う」こと自体はいいのです。ただ、自分の我欲によって「お金」を捨て「名声を選んだ」のだから、お金もその人を見捨てるのは当然ということです。
だから、昔の私もそうですが、そういう道を選んだ人が「お金に軽んじられて、低収入で困窮する」というのは、仕方がないことなんですね。「覚悟の上で選んだ道」なのだから、同情には値しないのです。
「お金がかかる事業」をやることも、正しくない?
先に「芸術系」の話をしましたが、店舗経営などの「お金がかかる事業」をすることも、一部は同じです。これは『ナニワ金融道』の作者の青木雄二氏が、『ゼニの人間学』などで下のような内容を書いています。
金持ちは、店舗の経営なんてそうそうしない。少なくともゼロから立ち上げることはしない。やるにしても「人が失敗した店舗を買い取ったりして、安く始める。
飲食店などの店舗を経営されている方がよく言われるのは店を立ち上げると、自分の店の奴隷になってしまうということ。もちろん、うまく行っている方もいますが、いつまでもそれが続くとは限りません。
店舗経営で稼ぐ人は、たとえば「外食王」と呼ばれる井戸実氏のように「ロードサイドの居抜き物件を改装する」などの方法で、低コストで事業を拡大していきます。
(居抜き物件…前の店舗の設備がそのまま残っている物件)
もちろん、井戸社長のやり方は1つの例ですが、事業をやるのであれば、そのくらい賢くやらなければいけないということです。事業をやる以上「愚直は美徳ではない」のです。
まとめ…「天職として、働き稼ぐ」のが一番いい
以上、日本人の借金の理由を見ながら、私が伝えたかったことをまとめると、下のようになります。
- 「浪費」にしても「低収入」「事業の失敗」にしても、「仕事に専念」し「ガンガン稼いでいれば」問題はなかった
「仕事に専念」とか「ガンガン稼ぐ」というと下のようになります。
- お金がすべてではない
- 仕事以外にも、大事なものがあある
こういう反論が出てくるでしょう。その通りでお金や仕事のためだけに働き続けるというのは、人間には難しいものです。どうしても「お金以外の何か」は必要なのです。
しかし、それを「息抜き」とか「消費」に求めてはいけないんですね。あるいは「稼げない夢」に求めても行けないのです。
夢・息抜き・喜びなどの全てが、「稼げる仕事」の中にあるのが最強なのです。この「稼げる仕事の中に見出す」というのが、一番むずかしいところでしょう。
これはもう、順番を意識的に入れ替えて―。
- まず、稼げる仕事に就く
- その「置かれた場所で咲く」と決める
- 仕事の喜びは、その中で見つけていく
こういうのが一番いいでしょう。これが絶対というわけではありませんが、「稼げる仕事で、かつ仕事自体が喜びである」という状態を実現するには、これが一番合理的です。
これはマックス・ウェーバーの代表作『プロテスタンティズムの倫理と、資本主義の精神』(プロ倫)でも指摘されていることです。厳格なプロテスタントが集まる土地で、現代の資本主義が育ったのは、彼らが「天職として」仕事に邁進し続けたからなのです。
つまり「人間はお金のために生きるのではない」と思い「お金以外のために、猛烈に働いた人々」が、結果的に資本主義を育てた…ということですね。おそらく、こういう人生を送ると「社会がどんな風に変わろうと、バブルが弾けようと、関係なく稼ぎ続けられる」のです。
理想論かも知れませんが、「一生お金に困らない生き方」のヒントが『プロ倫』にはあるといえます。
参考文献&サイト一覧
- 日本貸金業協会「貸金業が担う資金供給機能等の現状と動向に関する調査結果報告」(2015年3月27日)
- http://www.j-fsa.or.jp/doc/material/report/150327.pdf
- キャッシング利用者の「借金の理由」を参考
- 東京都「特別相談・多重債務110番の実施結果について」(2014年10月掲載)
- http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2014/10/20oat101.htm
- 「多重債務者の借金の原因」について、参考
- 青木雄二(2009)『ゼニの人間学』ロングセラーズ
- 「店舗の経営をすることは、最初から危険である」ことが書かれている
- 榎本まみ(2012)『督促OL 修行日記』文藝春秋
- 「あとがき」で、借金男子の経済的な貢献について書いている
- ZAKZAK「井戸実『外食業界を食らう』」
- http://www.zakzak.co.jp/people/archive/20090603.html
- 「ロードサイドのハイエナ」の経営手法についてのインタビュー
- 撤退する店舗の側も、撤去費用が節約できるので、双方にとってメリットがある、などの内容が語られている
- 井上雄彦(1998~2016)『バガボンド』講談社
- 吉岡家の当主になっても、武蔵との正々堂々の一騎打ちにこだわる吉岡伝七郎に対し、世話人の植田が下のように叱る
- 「当主になったその日から、愚直は美徳ではない!」
- マックス・ウェーバー(1989)『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』岩波書店
- 仕事に「天職として」打ち込んだ人々の「空前絶後の英雄的行動」が、結果的に彼らに巨万の富をもたらした、ということを、ウェーバーが指摘している