貸金業法改正のデメリット ~借りられない人が増え、経済が縮小した~

貸金業法改正のデメリット ~借りられない人が増え、経済が縮小した~

貸金業法改正には、デメリットもありました。ここではあえてデメリットを強調します。

簡単にまとめると、下のようになります。

  • 自営業者も含め「お金を借りられない人」が増えた
  • それにより、ヤミ金などの違法業者に走る人が増えた
  • 中小業者の倒産が相次ぎ、日本経済が衰退した

以下、詳しくまとめます。

貸金業法改正のデメリット・まとめ

ヤミ金・違法業者の利用者が増えた

これは改正前から指摘されていたことですが、貸金業法の改正によって、ヤミ金やクレジットカードの現金化などの違法業者の利用者が増えました。理由は下の通りです。

  • 「貸金業法第13条の2第2項の規定」にすでに引っかかっている人が、改正時点で利用者の約半分だった
  • さらに「金利引き下げ」によって、「低リスクな人」にしか、業者が融資できなくなった

つまり「貸金業法第13条の2第2項の規定」「金利引き下げ」の2つが原因です。それぞれ詳しく書くと下の通りです。

  • 改正が発表された2006年の時点で、消費者金融の利用者の約半分が、「年収の3分の1以上」借りている人だった

このような点で改正と同時に、もう一円も借りられなくなるという人が大量に出たんですね。そして、金利引き下げについては下の通りです。

  • 消費者金融にとって、融資は「投資」である
  • 金利という「リターン」が下がるなら「リスク」も下げないといけない
  • つまり、低所得・他からの借り入れがある人などには貸せない
  • だから、多くの人が消費者金融で借りられなくなった

そして、これら「借りられなくなった人々」がどうするかというと、ヤミ金などの違法業者に走ったわけですね。これを読んで「いや、借金を我慢すればいいじゃん」と思われるかも知れませんが、ことはそう単純ではないのです。

自営業の資金繰りで、借金は必須である

ネットビジネスのようなノーコストで回る事業を除けば、基本的に事業は「借金をして」行うものです。日本の不動産業でトップに立っている「森ビル」も1兆数千億円の資産のうち、1兆円が借金です。

ソフトバンクがアメリカの通信大手・スプリント社を買収した時も、やはり「2兆円の借金」をしました。このように「事業は借金をするのが当たり前」なのです。

そして、自営業の人たちも、しばしばそういう「健全な」理由で消費者金融から借りていたんですね。たとえば「造園業者」だと、下のようなパターンがあったわけです。

  1. 500万円くらい稼げる、急ぎの仕事が入った
  2. 材料費や人件費で、大体300万円必要
  3. しかし、手元に300万円の現金はない

この「300万円がない」というのは「稼いでいない」からではありません。自営業の場合、仕事をしてもすぐに支払ってもらえないのは普通だからです。数ヶ月~半年後にようやく払われるんですね。

このように売掛金(過去に仕事した分)はあるけど、現金はないということが、しばしば起こるのです。そして、どうするか。

  1. 銀行から300万円借りるには、時間がかかる
  2. 審査に通るだけの実力はあるが、時間がかかると、この話が流れる
  3. すぐに受けるには、すぐお金を借りるしかない
  4. だから、消費者金融で借りる

仮に300万円消費者金融で借りたとしても、翌月か数カ月後に、過去の仕事の売掛金が入ってくるなら、問題ないわけです。たとえば「300万円を1ヶ月」借りた時の利息は、消費者金融のビジネスローンの場合、大体「10万円」程度です。

サラリーマンの感覚だと、「1ヶ月で10万円の利息は高い」となるでしょう。しかし、この仕事を引き受けたら、「利益で、200万円」出るのです。もちろん支払いはまだ先ですが、「190万円、手元に残る」と考えれば「10万円くらいの先行投資は、どうってことない」のですね。

これが自営業の感覚です。つまり「サラリーマンが消費者金融で借りる」のとは、全然意味が違うのです。しかし、貸金業法を改正した官僚の人々には、こういう発想がまったくなかった。だから資金繰りに行き詰まった自営業の人々が、大量に倒産するという事態が起きたのです。

2008年頃の不況は、リーマンだけが原因ではない

2008年頃の不況は、サブプライムローン、リーマンショックが原因と言われています。しかし、『貸せない金融』などを書いた、小林幹男氏など、世界の金融に詳しい方に言わせれば、これは間違いです。まとめると、下のようになります。

  • 貸金業法改正の失敗と、「姉歯ショック」後の不動産業への行き過ぎた規制で、すでに日本の経済は縮小しまくっていた
  • そこに「トドメ」として、リーマンショックが起きた

つまり、小林幹男氏に言わせれば、あの頃の不況は官製不況なのです。「国が創りだした不況」ということですね。

しかし、官僚も政治家もそれは当然認めたくない。それでリーマンショックが起きたのをいいことに「すべて、サブプライム、リーマンショックが悪い」ということにしたのです。

そして、大衆は大衆で「わかりやすい説明の方が、頭を使わないで済む」ということで、それを受け入れるんですね。「勉強なんかしたくない」と言っていると、このように「お上に騙される」わけです。

改正のデメリットは、予想されていたが…

完全施行の2010年直前に「見直す」はずだった

実は、貸金業法改正のこれらのデメリットは、金融庁も予想していました。まとめると、下のようになります。

  • まともな利用者が「借りられなくて困る」ことは確かにあるだろう
  • しかし「まともでない人」の多重債務を防ぐには、こういう荒療治が必要
  • 消費者金融だけが不利になり、銀行が有利になる、というのもある
  • しかし、それはこの際無視する
  • 「これ以上、多重債務者を出さない」の一点に絞って、まず改革する

これが、当時の金融庁が考えていたこと。これは『理解されないビジネスモデル 消費者金融』などで、当時の責任者だった大森泰人・信用制度参事官が語られています(言葉は要約)。

つまり、金融庁は一部「経済に鈍感だった人」もいますが、大森氏のように弊害もあるのは覚悟の上で改正を決定した方もいるわけです(大森氏のインタビューは非常に面白いです)。

そして、そのように「弊害も予測」していたので、貸金業法は―。

  • 2006年から「徐々に」改正していく
  • その成果を見ながら、完全施行の「2010年」の直前で「見直し」をする

と決めていたのです。これは貸金業法の中にも文面で盛り込まれていて、その部分を見直し条項といいます。

「見直し条項」は、前代未聞の法律だった

この「見直し条項」というのは、日本の法律では前代未聞の内容でした。つまり、これまで「やってみないとわからない」という法律は、ほとんど施行されたことがなかったのです。

正確には「どんな法律も、やってみないとわからない」のですが、「国がそれを公式に認めることはなかった」わけです(信用がゆるぎますからね)。

しかし、貸金業法ではそういう「見直し条項」が設けられていた。これによって、完全施行前に「問題点は修正される」はずだったのです。しかし、なぜ修正されなかったのか。

2009年に「政権交代」が起きてしまった

これは金融業界にとっては「アクシデント」だったのですが、2009年に自民党から民主党への、政権交代が起きてしまったのです。2006年に改正を決めた時点では、当然自民党でした。

ということで「貸金業法の見直し」は、うやむやになってしまったんですね。政権交代をすれば、当然「他に緊急の課題」が山積みになるので、この件は「後回し」になってしまったのです。

そして、その後はまた民主党が迷走し、再度自民党に政権を取られる…ということになり、結局貸金業法は「問題点を抱えたまま、継続」することになってしまったのです。

専門家は「どう変えるべき」と主張しているか

では、現状の貸金業法は「どう改正すべき」なのか。専門家の意見をまとめると、下のようになります。

  • 個人信用情報を「さらにハイレベル」にすべき
  • 「公共料金・税金・その他の買い物」など、すべての情報を共有するべき
  • そうすれば、利用者の「スコア」を、さらに精緻に審査できる

そうするとどうなるかというと、下の通りです。

  • スコアが高い人…今より低金利で融資できる
  • スコアが低い人…今の法定金利より、高い金利を提示する(これを許可すべき)

このように「金利に個性が出る」わけです。こうなると―。

  • スコアが高い人…金利が低いのを見て、キャッシングに対する抵抗がなくなり、利用者が増える
  • スコアが低い人…金利は高くなるが「借りられない」という最悪の事態は避けられる

このように、それぞれにとってメリットがあります。もちろん業者にとっても―。

  • スコアが高い人への融資…新たな顧客を呼び込める。また、本来こういう人に貸したい
  • スコアが低い人への融資…高金利を取れるなら、融資してもいい

このようにメリットがあります。

海外のキャッシング業界では、実現している

これは絵空事ではなく、実際にアメリカ・イギリス・ドイツなどでは、このように「高度な信用情報の共有」がされています。これらの国では、利用者が―。

  • 自分のクレジットスコアをサイトで確認し、そのスコアだと「どの業者で、いくらの金利で借りられるか」
  • という「一括見積もり」まで出来る

…ようになっています。キャッシングの利用が「これだけオープン」になっているわけです。

こうして利用者が「比較」できる状態なので、それぞれの業者・銀行もサービスのために、あえて低金利にする所が増えているんですね。つまり金利は、政府が規制などしなくても、競争させれば自然と低くなるのです。

これを専門家は「自律的市場」と-呼びます。(政府の「他律」がない、ということですね)これが、今後の日本のキャッシング業界が、実現すべき目標です。

個人信用情報の共有を、どこまで出来るかが課題

上のやり方には問題点ももちろんあり―。

  • すべての支払い情報を共有するのは、プライバシーの侵害ではないか
  • そもそも、それだけの共有態勢を作るのに、かなりの時間とコストがかかる

などが指摘されています。プライバシーについては技術的には問題ないのですが、利用者の「心理的抵抗」が、日本では大きいと思われます。

アメリカ人などは、「こういうシステムで、自分も結局得する」というのがわかっているので、情報に対してオープンなわけです。しかし、日本人は「自分も得する」というのが、まだ感覚的にわかっていません。ということで、かなり抵抗があるでしょう。

この「抵抗」がなくなれば、共有体制を作る時間やコスト自体は、それほど大きなものでもないといえます。そして、抵抗をなくすには「日本人の金融リテラシーを高める」ということが必要です。つまり「金融教育」が必要なわけです。

ただ、日本人は親も先生もみんな「お金の話をするのが大嫌い&わかっていない」という致命的な欠点があります。これがある限り、いつまでも日本の金融市場は、「弱者と搾取者だけ」の不健全な状態から、抜けられないのですが…。

というように最終的には「日本人のお金に対する意識」の問題に行き着くのですが、何はともあれこうした課題をクリアすれば、貸金業法改正のデメリットは、解消できる(と言われています)。

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